DXへの機運の高まりを背景に、金融機関のシステムは、業務変革を実現できる手段としての役割を期待されるようになった。この変化に則し、システムの実装方法も、従来のオンプレミス、スクラッチ開発を当然とするものから、最適なソリューションを組み合わせるものへと変わろうとしている。11月13日に行われた「nCino Summit 2024」では、金融機関のDXをサポートするアプローチをパートナーと各社と議論した。
聞き手は中尾貴之(nCino株式会社 ディレクター ストラテジックパートナーシップアンドアライアンス)が務めました。

■金融機関の業務変革へのデロイトのアプローチ
中尾:「nCino Summit 2024」を通して、私たちは一気通貫で金融機関の業務プロセスをサポートすると説明してきましたが、nCinoだけで全てのお客様のニーズを満たすことはできません。nCinoが持ち合わせていない業務機能を補完するテクノロジーパートナー、導入をサポートするSIパートナーと共に、エコシステム全体でお客様の業務変革を進めていきたいと考えています。SIパートナーの中でも、デロイトさんには多くのグローバルプロジェクトを共に支援してきた実績があります。今後、日本での支援はどんな形になりそうかですか。
先本:デロイトでは、世界中で実行したプロジェクトの経験から得た知識を独自の方法論に整理していて、日本でもそのベストプラクティスを活用する予定です。また、米国にあるグローバルのCenter of Excellenceでは、約250名の専門家が在籍し、アクセラレーターと呼ぶプロジェクトで用いるツール群の整備、そして米国やインドのデリバリー拠点での導入支援と併せ、グローバル体制でnCino導入をサポートします。日本での支援を前に、デロイトでは独自にローカライゼーションを進めてきました。
お客様がシステム導入で直面する多くのリスクに対し、私たちは2つのアプローチを推奨しています。1つは、ヒト、プロセス、データ、テクノロジーの4つ要素を包括する戦略的なロードマップを策定し、導入するアプローチ、もう1つは「Fit to Standard」のアプローチです。各金融機関では、秘伝のタレ的な業務のやり方が蓄積されていると思います。それにシステムを合わせるのではなく、nCinoが標準機能として提供するグローバルベストプラクティスに業務を合わせる。標準機能を使う限りは常に最新の機能を使える。そのメリットは大きいと思います。
また、部署によっては変わることに対する抵抗がある可能性がありますが、まずは、実際にnCinoを触ってみてこそ実感できる効果があると思います。必要最小限の機能を備えた初期バージョンを迅速に展開しつつ、行内の理解を深めていく。このあたりも含めた実行力で、皆様の業務変革に貢献したいですね。

■金融機関における電子契約のトレンド
中尾:基調講演でピエールが話していたように、「世界中の銀行の課題は同じ」です。グローバル共通の方法論を持つデロイトさんと一緒に日本のお客様の業務変革に取り組めることをうれしく思います。続いて、佐藤さんから聞きたいのが、グローバルでは当たり前になりつつある電子契約についてです。そのトレンドについて聞かせてください。
佐藤:新型コロナウイルスの流行に伴い、社員が出社できなくなったこと、そして働き方改革への意欲の高まりを背景に電子署名が急速に普及し、現在、世界中で160万社以上のお客様がDocusignを導入しています。電子署名を提供する会社としては世界最大と言えるでしょう。金融業界では、メガバンクから地銀まで、多くのお客様がDocusignを利用していますが、金融業界にはまだ市場成長の余地があると考えています。
そのため、当社は外部アプリケーションとの連携を積極的に進めており、900を超える幅広い連携ソリューションを用意しています。nCinoはその中の1つです。契約プロセスの中で、契約締結 は一部に過ぎません。契約締結の前には契約書のドラフト作成、レビュー、交渉があるはずです。また、金融手続きの場合は、契約締結時に本人確認の手続きが必須ですし、締結後は契約書を保管しておかなくてはなりません。その一連の契約プロセスを一気通貫にサポートできるのがDocusignです。セキュリティの観点でも多くの認定を得ており、海外に本社がある会社ですが、国内でもデータセンターを運用しています。
日本の金融機関の導入事例としては、MUFG様が法人ローンの申込み手続きにDocusignを導入し、対面中心のプロセスの簡素化に成功しています。Docusignの導入で、契約手続きにかかる時間が1カ月から2日に短縮できました。また、国内だけでなく、海外事例も豊富です。

■iPaaSを活用したエコシステム構築
中尾:nCinoが理想とするエコシステムでは、様々なテクノロジーソリューションとの連携で、業務変革の支援範囲を拡張できるのが特徴です。続いて、金融機関がエコシステム構築をするメリットについて、川田さんから話を聞きたいと思います。
川田:金融機関のシステム連携では、ファイル転送や、メッセージング連携を用いるケースが多いのではないでしょうか。昨今のDXの機運の高まりと相まって、nCinoのようなSaaSを戦略的に採用する傾向が顕著です。SaaSの採用を進める企業の目的は、業務変革の実現です。短期間で導入し、早く効果を得たいと考えます。ハードウェアの調達からシステム構築を始めるやり方と比べ、SaaS導入は稼働開始までの期間を短縮できるのがメリットです。
短期間で期待効果を得るために避けて通れないのが、システム間の連携です。実は、システム同士を繋ぐインターフェースの開発にはかなりの工数と費用がかかる。HULFT SquareはiPaaS(integration Platform as a Service)と言って、システム間連携のインターフェースを集約する連携ハブをクラウド上で提供しています。日本の金融機関ではまだメインフレームが現役のところも多いですよね。文字コード体系の変換も行わなくてはならない。そもそも、システム間のインターフェースをシステムごとに開発する場合、片方のシステム改修が発生したタイミングで、インターフェースの改修も必要になります。繁忙期にはできず、タイミングを見計らってやらなくてはならない。HULFT Squareをハブとして連携することで、システムごとの改修の負担から解放されるのです。
SaaS側にHULFTのインターフェースがあればいいのですが、そうではないこともあります。その場合は、オンプレミスの基幹システムのデータをHULFTで転送し、iPaaS経由でSaaS側のAPIに接続するやり方で対応できるようにしています。システム連携のメリットは、周辺のSaaSとのエコシステム形成を促すことができることです。HULFT Squareは取引先とのデータ連携の選択肢を提供することもできます。

■個人信用情報と融資システムとの連携で変わる業務効率
中尾:これからの業務変革では、nCinoが提供する融資のシステムと基幹システムとの連携は必須ですから、HULFT Squareとの連携事例を紹介しようと準備を進めています。最後に、個人信用情報と融資システムとの連携について、大竹さんの話を聞きたいと思います。
大竹:2024年3月から個人信用情報照会の分野で協業を進めています。私たちは2002年から個人信用情報照会パッケージ「L-CRIP」を提供してきました。20年以上に渡り、パッケージビジネスの展開で順調に成長してきたのですが、お客様へ提供していたのはオンプレミス版のみでした。ユーザー体験の改善や他のソリューションとの連携が柔軟にできないこと、インフラの維持費用の問題が大きくなってきたことを機に、クラウドシフトへの検討を開始しました。2021年に国内のデータセンターにハウジングして、L-CRIP on クラウドとしてクラウド版のサービス提供を開始し、2022年にはAWS上に環境を再構築し、個人信用情報機関(KSC、CIC、JICC)と安全に接続し、個人信用情報の照会や審査、登録業務での利用が可能になりました。その後、クラウド版を「Seiko Trust 個信サービス」と名称変更し、現在に至ります。
これまで、オンプレミス版とクラウド版を合わせて、金融機関、クレジットカード会社、通信キャリアのお客様約180社にご利用いただいています。
まだnCinoとの連携実績はありませんが、HULFT SquareとのAPI連携による個人信用情報機関への照会を行う方法を計画していて、2025年1月からPoCを開始し、早期の提供開始を目指したいと考えています。この機会に「Seiko Trust 個信サービス」のことを知ってもらえればと思います。

中尾:皆さん、ありがとうございました。私たちは海外の企業だけをパートナーと考えているわけではありません。国内特有の要件にも対応しながら、nCinoの日本でのエコシステムを発展させていきたいと思います。