本来のデジタル変革は、ビジネスを変えるために行うものだが、テクノロジーソリューションを導入することが目的化することがしばしばだ。11月13日に行われた「nCino Summit 2024」では、アクセンチュアの淺井元太氏が登壇し、グローバルコンサルティングファームが蓄積してきた知見を基に、変革のあるべき進め方を共有した。

■国内法人融資ビジネスの現状と課題
アクセンチュアは、国内外で数多くの金融機関向けコンサルティングプロジェクト実績を持ち、nCinoに限らず、多くの金融機関の経営課題解決を支援してきた。プロジェクトでの支援を通して、金融機関関係者との対話の機会を重ねてきた淺井氏は、自身の経験から法人融資のビジネスの成長性を「金融機関の規模を問わず、基本的には成長基調が続く」という見通しを述べた。
たとえば、メガバンクでは、海外での法人融資を強化領域に据えている。国内でも、スタートアップへの融資需要が活発化しており、新しい成長材料になってきた。地銀に目を転じても、地方経済の活性化に貢献する地場の企業や個人事業主への融資の需要だけでなく、後継者問題を抱えるオーナー企業への事業継承支援が新しいビジネス機会として浮上している。ただし、「このような成長余地はあるものの、ポジティブな材料ばかりではない。法人融資はお客様あってのビジネスで、お客様接点から提供する『価値』とその接点を支える『基盤』の2つに改善の余地がある」と淺井氏は指摘した。
そもそも法人顧客の金融ニーズは、融資だけではない。むしろ、財務的視点から見た経営課題の解決に協力してほしいというニーズの方が重要だ。しかし、そのニーズに応えられるまでの関係構築ができている金融機関はどれだけあるのだろうか。淺井氏から見ると、法人営業は目の前の融資業務を遂行するだけで手一杯の印象を受けるのだという。背景には、顧客と行員のコミュニケーションが対面を前提としていること、業務プロセスも書類中心で、担当者の目視チェックやマニュアル作業に依存していることがある。
また、法人融資のプロセス全体を見た時、裏側でプロセスを支えるシステム群は、いずれもレガシー化していて、拡張性に乏しいという問題もある。本来であれば、1つのシステムで管理するべきデータが複数のシステムに分散している状態にある。もっと言えば、既存システムの中にデータがなく、書類やExcelファイルの中にあることを考慮すると、データ活用のための環境が整っていないと言えるだろう。さらに、組織と人材の観点では、目の前の業務を終わらせることに重きを置く「業務遂行型人材」が中心で、顧客が求める融資の先の経営課題解決に貢献できる人材を増やすところまでに至っていない。
■これからの法人融資が目指すべき姿とは?
多くの問題で山積みの現状だが、国内金融機関が目指すべきゴールが、「顧客の経営課題の解決や地域活性化に貢献すること」、これには多くが同意するはずだ。しかし、一気にこの目指す姿を実現することは難しい。そこで淺井氏が提案したのが、まずは「次世代融資1.0」、次に「次世代融資2.0」と、段階的に変革を進めるアプローチである。そのポイントは、「着手段階から2.0の達成を意識するが、最初は1.0の達成を目指すこと」にある。これには、中間目標を設定することで、最終的な目標達成を意識しやすくする狙いがある。
では、「次世代融資1.0」「次世代融資2.0」で達成するべきゴールを、それぞれどのように設定すればいいのか。淺井氏は「顧客とのコミュニケーション」「業務プロセス」「システム」「組織/人材」の4点で、次のように紹介した。
まず、お客様接点を介してのコミュニケーションについては、最終ゴールは「人間が中心でありつつも、AIを活用してお客様にとって有意義な提案をすること」、中間ゴールは「デジタル接点からのコミュニケーションの仕組みを提供すること」となる。業務プロセスについては、最終ゴールは「オペレーションゼロの実現」で、途中経過では「紙をなくして自動化の範囲を拡げること」を目指してほしいとした。システムでは、最終ゴールは「統合プラットフォームを整備すること」、途中経過では「融資プロセスを一気通貫で支えるクラウドネイティブなソリューションを導入すること」とした。最後の組織/人材に関しては、最終ゴールは「コンサルティング人材の育成」だが、途中経過では「変革に挑戦できる体制の整備」となる。
続けて、淺井氏は「日本では1.0を目指す銀行が出てきたばかりだが、海外では1.0は既に達成し、2.0を目指そうとしているところが多い」と訴える。視点を変えれば、世界には日本の金融機関が参考にするべき先行事例が多いことでもある。そして、「次世代融資1.0」実現のためのソリューションとしてnCinoがある。nCinoを導入することで、今まではコストや時間がかかると諦めていたベストプラクティスをタイムリーに導入できるようになるはずだ。
「nCinoの担当者と共に各金融機関に話を聞きに行き、お客様にデモを見せた時のnCinoの評価は、びっくりするぐらい高い。特に、現場の人たちが、ぜひ導入したいと意欲を示す。懸念しているのはROIを出せるかぐらいではないか」と淺井氏は述べた。システム導入の投資規模が大きいほど、投資判断には慎重になってしまうのは無理のないことだ。

■nCinoを活用したデジタル変革の進め方
解決の余地はあるが、金融機関は考え方を改めなくてはならない。まず、「システム更改ではなく、ビジネスを変えるための導入である」と変革の意義を理解してもらうことが必要だ。次に、「既存の融資管理システムを変えるのではなく、One Platformを構築する」ことも求められる。つまり、個人と法人を分けない。フロントとバックも分けない。全部まとめて見直すのがOne Platformの前提になる。
さらに、「システムを業務に合わせるのではなく、業務をシステムに合わせる」という意識改革も必要と、淺井氏は強調した。nCinoが提供している機能は、多くの海外金融機関が利用しているものだ。彼らはカスタマイズをせず、業務をシステムに合わせることを選択した。その導入も、ウォーターフォールではなく、アジャイルでやっていい。合意形成でも、現場からボトムアップで上申するやり方ではなく、経営陣に取り組みの重要性を認識してもらってから、関係部門に話をするトップダウンの方が、最終ゴール達成に向けてのコンセンサスを得やすい。プロジェクト体制も、ビジネスを変えるための取り組みである以上、ビジネス部門が起点になるはずで、経営陣も関与するべきだ。
淺井氏は、変革への成功に向けて「One Platformジャーニー」「Fit to Standard」「DX部門起点」の3つの提言を行った。まず、「One Platformジャーニー」はプロジェクトスコープの設定に関係する。金融機関によって、法人融資と個人融資の比率は異なる。既存のシステム資産の状況も異なる。個人だけ、法人だけと、始めはスコープを限定してもいいが、最初に全体のロードマップを作ることが望ましい。経営陣を含めて全体感を共有することで、士気を高めることにもなる。
「Fit to Standard」については、現在の業務の再現ではなく、nCinoの標準機能に徹底的に合わせるべきだ。その割り切りが、得られる効果の大きさに直結する。「DX部門起点」は、体制に関しての提言になる。「DX部門」とあるのは、CoE(Center of Excellence)組織のリーダーシップ確立を期待しての表現になる。システム部門任せにしない。ビジネス部門任せにもしない。CoEの中に、営業や審査のようなビジネス部門、システム部門のメンバーを集め、経営陣が体制にコミットする形で進めることが望ましい。nCino導入プロジェクトは、将来のビジネス成長の成否を決定する極めて重要なプロジェクトになるだろう。この3つは、既に成功している金融機関が採用したアプローチである。日本の金融機関が参考にできる点は多い。